第186話

 三浦は汚いものを見るような目で、たまを指さした。焼け焦げた姿のたまが、悪霊ではあるが元は人間だとわからなかったのだろう。確かに、黒くすすけ形が崩れたたまは、人間というよりは、ぼろくずに目が光っているだけの怪物に近い。


 「コレ、じゃない……ものじゃない。たま、人間なのに、生きてたのに」


 たまに火が付き、燃え始めた。たまは身を焼いて、三浦に迫っていく。三浦はたまを指さしたまま、首を左右に振る。後ずさりしようとして、尻もちをついた。手に持っていた黒いセカンドバッグをとり落とす。


 「う、うわ……」


 座ったまま、後ろに下がろうと足をバタバタもがく。しかしたまは容赦なく、三浦の首を掴んで、握りつぶした。


 「いらない。お前はいらない。きらい。おとーさんと一緒。おとーさん、キライ……」


 たまの目が狂気の光を放っている。しゃらんしゃらんと窓辺のガラス細工がうるさく騒ぐ。


 「み、三浦……」


 俺ができたのは、その名を呼ぶことだけだった。わずかに声に反応して俺を見た三浦の瞳から、涙が一筋、流れた。口から血の泡を溢れさせ、「永里……」というと、床に崩れ落ちた。その見開いた目が、もう何も見ていないのは明らかだった。助けてもらったのに、何もできずに命を落とさせてしまった。

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