第183話

 シャラ……シャラ……と涼し気な音が背後の窓から聞こえてきた。この音は、南由のお気に入りのサンキャッチャーの音だ。硝子の飾りがいくつもぶらさがり、それぞれ光を弾き、風に揺れる。シャラシャラと音を立てて、色とりどりの光を床にまき散らすのだ。


 南由はこのサンキャッチャーが好きだというが、俺はときおり硝子が擦れる音が嫌いだ。床にまき散らされる無秩序な光が胸の中をざわつかせる。


 「イラつくんだよっ!」と、サンキャッチャーに手を伸ばす。叩き落とすつもりだった。だけど、出来なかった。


 シャラシャラと音を立てる硝子の飾り。その一つ一つの中に顔があった。叫んでいる顔、泣いている顔、怒り狂っている顔……。

 そして、黄色い小さな硝子のカケラの中に、その顔を見つけた。


 「潮田……?」


 潮田の目がぐるりと動き、俺を捉えた。


 「うっ……」


 動けなかった。取るに足らない奴だと思っていたのに、それは間違っていたと思い知らされた。潮田が硝子の中でニヤニヤ笑う。


 「え・り・ぼ・む」と口パクで言う。

 「だから、それは関係なかっただろっ!」と、思わず言い返してしまった。


 えりぼむを壊すことが意味がなかったからといって、だまされたとは言えないのかもしれない。不動産屋の女社長は効果があるかどうかはわからない、と言っていたのだから。

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