第182話

 しん、と部屋が静まった。はあはあという俺の息遣いだけが、からっぽの部屋に響く。


 「紘……くん……。どうして? どうして私の宝物、壊すの……?」


 消えそうな声で南由が聞いた。まるで、ドライバーを突き立てられたのはここだ、というように、自分の胸のあたりをギュッと握りしめている。悲しそうな、すがるような目で、俺を見つめていた。


 「助けようと、したんだ。えりぼむって、携帯電話の事だろ? だから壊せば拠り所がなくなって……消えるはずだよな?」


 目の前ですすり泣く南由を見て混乱する。

 携帯電話は破壊した。それなのに、南由は成仏する気配もなく、ここにいる。ここにいて、泣いている。そしてたまにも、おかーさんにも、異変は何ひとつ起きていなかった。


 「あはは! バカなこーた! またなゆを傷つけた!」


 「お前、なんで、消えないんだよっ?」


 「ねえ、なゆ、わかったでしょ。こーたはなゆのこと、いらないんだって。もういらないんだって! だから、あたしとおかーさんのママになってよ」


 たまはすすり泣く南由の顔を喜びに満ちた目で覗き込み、甲高い声で言い募る。


 「えりぼむって、携帯電話じゃなかったのか?」


 混乱する頭で考える。携帯電話じゃないなら、なんだ? 壊せと言われたものはなんだ?

 

 たまが笑い出した。甲高い笑い声が部屋中に響き渡る。壁にあたり、跳ね返り。

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