第181話
情けないことに、南由を説得する材料が何も思いつかなかった。たまの言う通り、南由を見捨てて永里を選んだのは俺だ。
やみくもに手を伸ばし、携帯電話を渡せと声を荒げるしかない。そんな言い方をすれば、南由が怯えてしまうと分かっているのに……。
南由はやがて、ふっと体の力を抜いた。
「そっか、私……、死んでいるんだね……」
南由の手の中にあるように見えていた、携帯電話がするりと落ちた。南由の輪郭がゆらっと揺れる。
「なゆっ、行っちゃダメ!」
たまが金切り声をあげた。その声に呼び戻されるように、再び南由の輪郭がくっきりと描かれる。
「おかーさん、なゆが離れようとするの。家族なのに……、あたしたちを置いてどこかに行こうとするんだよ!」
たまの声が、ひび割れる。手に持ったクマの縫いぐるみの目がブラブラ揺れている。そしてたまの顔が崩れ、焼けただれていく……。恐怖で目を逸らした。
南由の瞳にあわれみが浮かぶ。
「かわいそうに……」
南由がたまの方に足を踏み出した。両手を差し伸べている。たまが南由に見えないように、俺を見てにたっと笑う。
「南由っ! 行っちゃダメだ!」
とっさに、プラスドライバーを振り上げ、床に転がっている赤い携帯電話に叩きつけた。ドライバーはガン、と画面を割り、本体に突き刺さった。ちいさな赤いランプが消えた……。
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