第179話
自分が死んだという自覚がないままに、恋人と親友に裏切られた南由の気持ちを思う。勝手にこの世に引き止めておいて、他に気になる子が出来たとたんに、もういいとサヨナラも言わずに、独りぼっちにした……。
「ごめん」
永里のことが好きだ。だけど、永里には三浦がいる。南由には俺しかいないんだ……。一歩、二歩、南由に近寄る。
南由を縛り付けているこの世の未練から救ってやれるのなら、俺が一緒に逝ってやる。手を引いてやるから、一緒に逝こう……。
南由に触れようと手を差し伸べると、ズキッと頭に痛みが走った。脳をわしづかみにされたような痛みだ。思わず頭を抱える。
――忘れたの? 忘れたの? 約束したじゃない。こーたの嘘つき。なゆ、くれるって言ったじゃない。欲しいの。優しいママがほしいんだ。だからなゆがほしいの。こーたにはあげない――
「たま……。てんけい……か?」
頭の痛みでうめき声が漏れ出る。よろけてあとずさり、肩がぶつかった壁にそのままもたれかかった。
――なゆ、ちょうだい。ママになってもらうんだから。おかーさんとあたしの、ママになってもらうんだ。だからなゆ、ちょうだい――
たまが俺の前に立ちはだかり右手を伸ばして、俺の方に向けている。かぎ状に曲げた指に力を入れ、爪を立ててぎゅうっと握る。
「ぎゃあああああっ」
激痛が襲う。頭を両手で押さえる。ダメだ。脳みそがつぶされる……。立っていられず、床を転げまわる。
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