第173話

 「紘くん、それよりね、私のスマホ知らない? 見つからないの」


 「あ……」手をポケットに入れて、南由の携帯電話を掴む。


 でもこれは、この携帯電話は壊さないと。


 「南由、このスマホだけど」

 「あ、これこれ! 紘くんが持っていたの? よかったー!」


 ポケットから半分顔を出している携帯電話に、南由が嬉しそうに手を伸ばしてくる。その青白い手から、携帯電話を逃がすように、さっと手を上にあげた。


 「えっ、ちょっと……! きゃあ!」


 南由が携帯電話を掴みそこねてよろけた。


 「南由、ごめん。このスマホ、壊さないといけないんだ」

 「え? なんで? なんでそんなこと言うの? 紘くん……」


 南由が首を傾げる。


 「こんなものがあるから、あいつらが南由に憑りついているんだ」

 「あいつら?」

 「たまとおかーさんのことだよ!」


 「あの子達……? 憑りつくなんて、そんなこと……。最初は怖かったけど、紘くんが来てくれなくなっても、寂しさをまぎらわせることができたのは、あの子達のおかげなのに」


 「あの子達、なんて言うなよ!」


 南由を怒鳴りつけてしまった。南由を殺した奴らじゃないか。

 しかし南由は目を見開き、俺を悲しそうに見返してきた。


 「それならどうして、来てくれなかったの? 紘くんが来てくれていたら、私……」

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