第170話

 九枝不動産の女社長は、「小さな子供の霊だと言ったって、ひらがなとカタカナくらいは読めるかもしれないと思ってね。だからわからないようにしてメモを書いたんだよ」と言っていた。


 その話を聞いた時には、ずいぶん用心深いんだな、と思ったが、今では必要なことに思える。たまやおかーさんに、えりぼむを破壊しようとしていることが知られたら、妨害してくるに違いない。


 もしマンションではなく、えりぼむ、つまり携帯電話自体が問題なら、壊すのは南由の部屋でも別の場所でも変わらないはずだ。


 しかし、なぜ携帯電話なのか……? しかも南由の……。


 不動産屋の社長の話から推測すると、たまやおかーさんが亡くなったのは、昭和三十年代だ。その頃には、まだ携帯電話はなかったはずだ。的外れな事をしているのではないかという嫌な違和感が湧いてくるのを、頭を振って追いやる。


 そもそも怨霊などということ自体が、普通ならありえないのだ。たまやおかーさんが何にとり憑いたとしても、不思議はないだろう。


 「そろそろ行くか」


 エンジンをかけたところで、ふと、レンタカーをどうしようか、と思った。早く返さないと、延滞料金がかさんでしまう。

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