第165話

※※※※※

 すっかり陽の落ちた郊外の高速道路には、ほとんど車は走っていない。

 一日中、重く垂れこめていた空から、雨が落ちてきた。強まっていく雨脚が視界を奪うのに対抗するには、道路の両側に等間隔に並ぶ街灯のオレンジ色の灯りは、あまりにもくらい。山を切り崩して作った道路の両側からは山肌が迫っている。ずっと先まで続いているアスファルトがゆるいカーブを描いているが、奥へ進むほど道幅が狭まっていく気がする。

 遠くのものほど小さく見える、ただそれだけだ、と自分に言い聞かせる。それでも闇に通じるトンネルに入っていくような気がして、Uターンしたくなる。


 高速道路を降りて、南由のマンションの近くのコンビニエンスストアに車を停める。あの店長の店だ。店長が店に出ているかどうかは分からないが、もし会えるなら会っておきたかった。もし会えたら、なんて言おうか……? 迷いながら自動ドアをくぐる。レジには誰も立っていなかった。


 ぐるりと店内を歩く。本当はアイスピックが欲しかったのだが、さすがに売っていなかったので、目に付いた、赤い柄のついたプラスのドライバーを手に取る。頑丈そうだし、思い切りスマートフォンに打ち付けても、壊れないだろう。


 早く、早く。気が急く。気が付かれないうちに。まだ怨霊たちが息を潜めているうちに。

 足早にレジに向かうと、店長が立っていた。ほんの少し、照れたような顔でプラスのドライバーにバーコードリーダーを押しあてる。


 「気になっていたんだ。逃げ出すみたいに、蓑笠くんをファミレスに置いてきちゃってさ。悪かったと思ってね」

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