第164話
ゆっくりとキーを回しエンジンをかけると、エアコンを強くかける。送風口から風が勢いよく吹き出した。初めは生ぬるい温度が不快だったが、しばらく回したままにしていると冷えてきた。せめて快適な温度の風を浴びるくらいの猶予はゆるされるだろう。
腕で目を覆って、背中をシートにあずけ、涼しい風を頬に受けた。
俺と一緒にいては、永里が危ない。怨霊が執着しているのは南由で、南由が執着しているのは俺なんだ。しかし、てんけいは永里と一緒にいろと言う。
「どうすりゃいいんだよ」と愚痴を吐き出した。
これから南由のスマートフォンを始末するつもりだが、どうなるかまったくわからない。
傷が癒えて退院できるようになっても、永里を病院に迎えに行くことはできないかもしれない。それどころか、永里と一緒にいることは、もうできないのかもしれない。さんざん永里を巻き込んで、怪我までさせておいて、自分勝手だとは思う。
しかしスマートフォンを壊す以外の方法は思いつかなかった。遊園地なら人ごみに紛れて、たまに気が付かれずに棄てられるのではないかと思ったが、やはり破壊しなければダメだ。安心できない。せめて永里から離れた場所で壊そうと思った。
永里を守るためとはいえ一人で放りだすのは、忍びない。スマートフォンを手に取ると、メモリダイヤルから番号を選んで、タップした。長い呼び出し音の後、ようやく不機嫌なため息が電話の向こうから聞こえてきた。
「なんか用?」
「三浦か? すまない、頼みがあるんだ……」
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