第163話

 俺は永里とは別々の救急車に乗せられたが、同じ病院に運ばれた。永里は鉄骨に擦って、背中一面、火傷を負っていた。顔の傷もまた開いてしまい、背中と一緒に治療を受けた。


 しばらくの間、入院することになった永里を置いて、一旦帰宅するように指示された。


 永里の部屋をのぞくと、鎮静剤でもうたれたのか、すぅすぅと寝息を立てていた。


 「永里。怨霊を片付けてくるから、待ってろ。南由にも会って……、何とかしなきゃな。もう永里を傷つけさせないから、安心して」


 永里の頬に触れ、そっと撫でる。髪に手を差し込み、薄く開いた唇に口づけた。

 何にも永里を傷つけさせはしない、と誓って立ち上がり、病室を出た。


 たまもおかーさんも南由も、今はいない。ジェットコースターが緊急停止し、大勢の人に取り囲まれると、いつの間にか気配を消していた。

 しかし、またいつやってくるかわからない。猶予はないのだ。


 ポケットの上から、南由のスマートフォンを握りしめる。

 壊してやる……、と声に出してしまい、すれ違った看護師さんに怪訝そうな顔で見られてしまった。愛想笑いを浮かべて、足早に立ち去る。

 タクシーで山の遊園地に戻り、来るときに乗ってきたレンタカーに乗り込む。行きは賑やかだったが、今は一人だ。もちろん、怨霊の同乗者が欲しいとは思わないけど。


 ポケットから南由の赤いスマートフォンを取り出し、助手席のグローブボックスに静かに入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る