第162話 1

 最近、よく眠れるようになった。


 灰色の目の少女とたくさん遊んであげた日は、火事や火傷で少女の顔が崩れていくような、おそろしい夢は見ないみたい。

 少女とかくれんぼやお絵かき、おままごとなんかをして、遊び疲れて眠くなると、半分閉じた目に、万華鏡のような光がちらちらと映る。キレイだなあ…と光を目で追っかけていると、いつの間にか、ところどころニスがはげた木のテーブルや、カチカチと音が鳴る掛け時計がある部屋にいる。


 ああ、火事になったあの部屋だ、と思う。火事になる前の、あの部屋だ、と。


 やがて、ゆめうつつに唄うような声が聞こえてくる。おかーさんが大きなお腹をさすって体をゆらし、話しかけている。


 「いい子、いい子、かわいい子。早く出ておいで。一緒にお話ししようね。いっぱい遊ぼうね。いい子、いい子、かわいい子。いい子のたまちゃん……」


 たまちゃん……。お腹の中の子の呼び名らしい、とすぐに見当がついた。


 「いい子、いい子、かわいい子。いい子のたまちゃん……」


 気が付くと一緒に呟いている。そしていつの間にか眠ってしまう……。

 眠りに落ちる気持ちのいい瞬間に、必ず湧いて来る疑問がひとつ。


 「紘くんは、どうして来てくれないの……?」


 どろり、と黒い沼が私の中でひろがっていく。

 そして、また酷い悪夢を見た。やっと紘くんが来てくれたと思ったら、永里が一緒にいた。場所は遊園地。


 紘くんと遊園地に行くのは初めてだから、とっても楽しかった。それで私と紘くんが手を繋いでジェットコースターに乗っていたのに、永里が突然、私の手を払って、紘くんの手を握った。


 なんで? 紘くんは私の恋人なのに。永里は私の親友で、いつも私を応援してくれていたのに。なんでなの……?


 悲しくなって、私は叫んだ。紘くんと永里が私を裏切る訳ない。だからこれはきっと、夢だ。それとも幻覚? ずっと家にいるから、悪い考えに取りつかれたに決まっている。

 ただの夢なら、幻覚なら、いいよね? 永里を……してもいいよね?

 …………とん…………


 

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