第159話

 目に映ったのは、ぐるりと回転する螺旋らせんのレールだった。これからあの回転するコースを走るのか? 無理だ。落ちる。まちがいなく、落ちる。


 永里は怯えた目で、俺の背後を凝視している。


 「ごめんなさい、ごめんなさい! 許して、南由。助けて!」


 南由には遠心力も引力も無効なのだろう。コースターの前部に移動し、俺たちの目の前に立っていた。


 「永里がいけないんだよ。私から紘くんを取ったりするから……」


 そしてゆっくり永里に手を伸ばすと、とん、と軽く突き飛ばした。ほんとうに、軽く。

 それなのに、永里の体がはじき飛んだ。コースターから体半分がはみ出て落ちかかる。永里にしがみつくが遠心力に持っていかれる。

 嫌な、音がした。

 ゴリ、というような……、そして永里の服の繊維が焼け、焦げ臭いにおいが周囲にまき散らされる。


 「永里!」


 ドンッ!と甲高い音がした。緊急停止ブレーキがかかり、永里が体をシートに打ち付けたのだ。一瞬ホッとしたが、安全バーをしていない永里は、コースターの急な減速に耐えられず、前方の隙間に投げ出され、体を打ち付けてしまった。


 「……永里……?」


 永里は呼びかけてもピクリとも動かない。

 心臓がありえない早さで打ち始めた。全力で走った後の様に、息切れがして一気に汗がどっと噴き出た。


 

 「大丈夫ですか!」


 遊園地のスタッフが駆け寄ってくる。

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