第158話
右に、左に体が振られる。登って落ちる。南由の手が永里の方に伸びないように、実体のない南由の手を握ったまま、グラグラと体が傾ぐ。
南由が背後から抱き付いてくる。体が固く丸くなった。
「紘大くん、大丈夫?」
永里が違和感を感じて、こちらを見た。心配そうに、不自然な位置にある俺の手を握った。南由の手を押しのけて。そして首を傾げ、目が見えにくいものを見ようとするように、細められる。
「大丈夫!」と、大声で答えて、自分に視線を引き付けようとしたが、遅かった。南由が永里を見た。
そして永里も見た。命ない者たちを。
「きゃああっ!」と叫ぶと、逃げ出そうと体が宙を泳いだ。
大丈夫、落ちないはずだ。金属製の安全バーが体に巻き付いているんだから。
しかし南由が立ち上がり、永里を指さすと、バンッと音を立てて、安全バーが跳ね上がり、俺の必死な願いは砕け散った。落ちる……!
「永里っ! 手すりにつかまれっ!」
叫んで永里の服をつかむ。勢いよくジェットコースターがレールを走って行く。カットソーの柔らかい生地が伸びて、永里の体が外側に引っ張られてしまう。
「あはは! 落っこちちゃえ!」たまがはやしてる。
必死に永里を抑えるが、急カーブで体が傾く。永里も遠心力で体が強くコースターの外側に持っていかれる。
ようやく、周囲から悲鳴があがり、「ジェットコースターを止めろ!」という声が聞こえてきた。
永里の服を掴んでいた手がしびれ、徐々に握力が低下していく。
終着点はまだだろうか? とレールの先に目を走らせる。
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