第157話

 「うわああああああああっ」


 演技ではない絶叫が搾り取られていく。

 キャーっという永里の楽しそうな悲鳴が隣から聞こえる。横目で見ると髪をなびかせ、両手を安全バーから離し空に伸ばしていた。シートからお尻がふわりと浮く。


 「つかまってろ、永里!」


 俺は恐怖を抑えられずに叫ぶが、聞こえないみたいだ。永里の手首をつかもうと手を伸ばす。すると視界がぼんやりと霞んだ。目にひんやりとした感触をかすかに感じる。


 「な、ゆ……?」

 「紘ちゃん、私と、手、つなごう?」

 「あ、ああ……」と返事をして、永里に伸ばした右手を引き戻した。


肩のところで、手のひらを上にむけると、南由が手を握ってきた。感触はないが、ひどく冷たい。触れているところから手の温度が下がっていく。永里はジェットコースターに夢中で、僕のおかしな手の位置には気が付いていない。


 気が付かないでくれ、と願う。楽しいはずのジェットコースターが、恐怖の一分半になるのは俺だけで充分だ。


 南由には体を抑える金属製の安全バーなんか関係ないのだろう。握り合った手に頬をよせてくる。

 もしも……一年前だったら。怖がる南由の手をギュッと握り返し、髪を撫で、一緒に笑いあってジェットコースターを楽しんでいたかもしれない。そう考えると、胸が痛い。


 ……なぜなら、恐怖しか感じないからだ。もう今は。

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