第156話

 宇宙ステーションの乗務員を模した制服を着たスタッフが、五人分の安全装置を確認し、機械室に発車の合図をする。


 「行ってらっしゃーい!」とアニメの声優のような声で言って、笑顔で手を振ってくれる。たまが恥ずかしそうに手を振り返している。


 ゆっくりとジェットコースターが走り出す。するとレールが動いて、乗り物を頂上に引っ張り上げる。重力で体がシートに押し付けられる。

 もうすぐてっぺんに着く。永里が安全バーを握っている僕の手を握ってきた。


 温度が下がり、すうっと冷たい風が背後から吹き抜けていく。永里の手を引きはがす。


 「危ないだろ、ちゃんと捕まっていないと」

 「怖がりだなあ、紘大くん! そんなに両手でガッチリ手すりをつかんでなくても平気だよ」永里がからかうような目つきで覗き込んでくるから、「怖いもんはしょうがないだろ」と顔を背ける。


 本当は怖いのはジェットコースターじゃない。手をつないで仲良くジェットコースターに乗ったりしたら、南由を怒らせそうだからだ。動いているジェットコースターで南由が怒ると考えただけでぞっとする。顔に傷がつく程度で済むとは思えない。


 チキチキチキチキチキチキチキチキ…という音がピタリととまる。一番高い位置に着いたのだ。メリーゴーランドがやけに小さく見える、と思った瞬間、レールがあるはずなのにその存在を感じさせないほどの速さで、コースターはほとんど落下しはじめた。

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