第155話

 ふう、と小さく息をつく。無理に決まっているじゃないか。たまは一時姿を消していたが、気が付けば再び姿を現していた。こちらが立ち止まれば止まり、歩けば歩き、走れば走ったなりの速さで、追いかけてくるんだ。たとえば、車に乗っても電車に乗っても、それはきっと変わらない。逃げられないんだ……。このポケットの中の携帯電話がある限り。


 ゆらゆらと腕が揺すぶられる。たまが見上げている。そして俺と目が合うと、意味ありげに唇をゆがませ、ないしょだよ、というように人差し指を唇に当てた。


 ――いいなあ、なゆ、ほしいなあ。なゆ、ちょうだい――


 てんけいが頭に響いてくる。てんけいはたまのお願い。たまには誰も逆らえはしない……。


 ――ちょうだい、なゆ、ちょうだい。なゆをくれたら、こうたにはその子をあげる――。


 ――ないしょ、ないしょのやくそく。こうたがその子と仲良くしてたら、なゆはひとりぼっち。そしたら、なゆは怒って、あたしのところにきてくれるはず。きっと、きっとね、ママになってくれるよ。だから、なゆ、あたしにちょうだい――


 やがて俺たちの順番がやってくる。俺以外の人間には、南由とおかーさんとたまの姿は見えていないようすなのに、ジェットコースターのスタッフは、なぜか六人乗りの乗り物に俺と永里以外乗車させなかった。二人人掛けのシートが三列あり、一番前が俺と永里。その後ろに南由とたま、一番後ろにおかーさんが座る。

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