第160話

 立てなくなった永里を、コースターから抱えて下ろしてくれた。俺がやる、と言いかけたが、体を動かすと肩と腕に痛みが走った。


 永里を隣で押さえていたので、筋肉が引きちぎれたのだろう。立とうとしたが、ずっと踏ん張って力を入れていたので、足も痛む。よろけると、スタッフが支えてくれた。


 体格のいい男性が、小さな声で「すみません、大丈夫ですか? 段差がありますから気を付けてくださいね。すみません……」とひっきりなしに気遣い、謝罪を口にしている。それを耳にしながら、そうか、これは遊園地の過失になるんだな、と思った。


 膝に力が入らずくずれそうになる足で、鉄の階段を降りていると、やじ馬がスマートフォンを向けてきた。スタッフがすかさず撮らないように注意し、カメラに映らないように間に入って妨害してくれるのがありがたかった。


 (そうだ、携帯電話……)


 手をポケットに入れて探る。つるつるとした手触りを確かめる。ちゃんとある。棄てるだけでは、戻ってくる。だから壊さなければ。

 これを壊せば、たまとおかーさんとやらも消え、南由は解放されるはずだ、と思いながら、疲れきった頭では、破壊する方法を考えることが出来なかった……。


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