第150話

 「怨霊と言い換えてもいいけど、九枝のお祖父さんは幽霊なんか信じていないから、広い土地をただ同然で手に入れて喜んでいたそうだよ。


 幽霊は信じちゃいないくせに、なぜだが怨霊を祓うような事をしようとすると、家が潰れるって言い伝えられてきたんだ。


 アタシが嫁に来た頃には、お義母さんになんどもなんども口酸っぱく言われたもんだ。だけどね……。結局さ、いいことと抱き合わせなんだよね。飴と鞭」


 「飴?」


 「可愛いんだよ。あの子。ちょうだい、っておねだりされるとさ。ついそんな簡単なことなら、って思ってね。


 言うことを聞くと、九枝の家がとたんに潤うんだ。ぱったりだった客足が戻り、大口の仕事が舞い込み、ってね。だからだんだん、頼りきりになる。囚われちゃうんだ。……うちの夫も、息子もね……」


 てんけいだ、と思う。きっと九枝の家の人間にも聞こえたのだろう。


 「どんな願いをかなえてやったんですか?」


 「簡単なことさ。埋まらない空き部屋に、コレを」と赤いマニキュアを塗った指先が、メモパッドをコツコツ、と叩いた。「それだけでいいんだ」

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