第149話

 「息子は市会議員に立候補するのしないのってね。そんな時期だったから、不祥事は困る。それで優生保護法を建前に使って、無理やり子供を下ろさせようとしたんだ」


 「優生……って?」聞きなれない法律の名前に、首を傾げた。


 「優生保護法ってのはね、法律で定められた障害を持っている人なら、本人の同意がなくても、子宮を取ったり、堕胎させたりすることが出来るっていうひどい法律さ」


 「そんな法律」ある訳ない、と言いかけたが、社長は手を上げて俺を黙らせた。


 「今はもう廃止になったけどね、昔はあったんだ。本当の話だよ。だけど法律があるっていっても、病院に連れて行かないと手術できないからね。どうしてもその子が病院に行かないし、いつもほわっとしているのに、母親の本能なのかなあ……。その時ばかりは妙に勘がよくてね、だまくらかして病院に連れて行くこともできなかった。そういうするうちに、お腹の子供が育ち過ぎちゃって、おろせなくなった。それで結局、口封じに放火しちゃったってところらしいよ」


 「ひでえ……」


 「亡くなったのは、親に捨てられたような子だったし、ろくな調査もされなかった。証拠もあがらないのに、地元の権力者の息子が逮捕されるなんてことは、まあ、なかったの。ついでに念には念を入れて、証拠隠滅のために、ただ同然で焼け跡の土地を九枝の家に押し付けたのよ」


 「なんだよ、それ……」


 「その時の条件が、火事の片付けと怨念を引き受けること、だったらしいね」


 「怨念……」

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