第146話

 あんなに恐ろしいと思っていたのに、愛らしい笑顔を可愛いと感じてしまう。

 キュッと手を握ると、永里とたまが一緒に笑顔になった。そしてたまはゆらっと煙がただようように姿をゆらし、空気に溶け見えなくなった。まさか、成仏したのだろうか? 振り返ると、おかーさんも南由もいない。


 その後は永里と二人、何にも邪魔されることもなく、遊園地を楽しんだ。昼食は休憩をかねて、遊園地内のレストランでゆっくり摂った。

 降りそうな空模様だったが、雨が落ちてくることはなく、むしろ暑すぎなくて快適なほどだった。陽が傾いて空が朱に染まるころ、遊園地の目玉のジェットコースターの列に並んだ。幸い、列は長くなかったが、列の最後尾に立っているお知らせの看板には、それでも三十分待ち、と書いてあった。


 行列に並び、惰性で足を動かしていると、頭の隅に追いやっていた、たまの事がじわりと思考に滲出してきた。


 もしかして、そんなに悪いではないのかもしれないな……。


 不動産屋の女社長は、マンションとは関係ないけど、と何度も前置きしつつ、マンションの近辺に出る幽霊については、可哀そうだから、なんども供養してあげようと思ってきたのだと言っていた。


 「でも出来ないのよ。お祓いしようとしたりすると、ピタッとお客さんが来なくなっちゃう。それで夢を見るの。起きていても寝ていても……。可愛らしい女の子と、ちょっと頼りなさそうな若いお母さんが出てくるんだ。


 それでね、最初は二人を見ていたはずなのに、気が付くと私はあの子のお母さんに同化していて……。あの子が顔を覗き込んで、私に頼むの。


 『あのね、みんな、かぞくがいるんだよ。おにーちゃんとかおねーちゃんとか。いいなあ。たまもほしいなあ……』って……。あんまり可愛くて、だから私……」と、懐かしむように遠くをみて、黙ってしまった。


 「だから?」と、しびれを切らせて促すと、ハッとしたように俺の顔を見て、目をまたたいた。

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