第145話 5

 遊園地に着くと黒い雲がさらに下がって来ていた。山の中腹にある遊園地なので、平地とは天候が違うのかもしれなかった。


 「降るかもしれないな」と空を仰ぐと、雲が風に流されていった。


 「屋外の乗り物、先に乗っちゃおう」と永里が手を引いた。


 反対側の手を南由が。そして永里の手の下には、たまの小さな手が収まっている。たまは永里などいないみたいに、俺と手を繋ぎ、隣を歩く。気のせいか、ほんの少し身ぎれいになっている気がする。


 繋がれた手の先のたまの手を見る。汚れて真っ黒だった指が、手を洗ったように白くなっていて、はっとした。べたついて固まっていた、不揃いな髪も、洗いたてのようにさらさらと風に揺れている。

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