第139話

 冷たいものは、小さな、細い手のようだった。握られた手からじわっと立体映像が映し出されていくように、姿が視えるようになってきた。幼い子供が俺の手を握っている。幼い子供の手なのに、固い。そして冷たい。石像の手を握っているみたいだ。


 長い髪の少女が、俺を見上げていた。反対側の手には、汚いクマの縫いぐるみを引きずっている。目のすぐ上で、前髪が不揃いに切られている。

 「たま」と名乗った少女は、子供が楽しい時にやるように、繋いだ手をぶらぶらとゆらした。


 「南由は……?」


 「いるよ。あっち」と、黒く汚れた爪で指さす。その指の先を辿ると、南由がこちらに背を向けて立っていた。


 南由、と声をかけようとして口をつぐむ。なんと言えばいいのかわからなかった。何を言っても、南由をさらに傷つけるだけだと思った。

 怨霊から南由を救いだすことが、せめてものつぐないになるだろうか。


 少女に「お母さんと、お父さんは?」と聞く。


 「おとーさんはいない。みんなにはいるのに、あたしにはいない……」


 ぶらぶらと揺れていた手が、イライラしたように、ブンッブンッと強くゆすぶられる。容赦なく、めちゃくちゃな動きは、肘と肩の関節をひねった。

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