第126話

 無言で打ちひしがれている俺を信用したのか、医師は眉尻を下げた。気の毒そうな顔で「ささえてあげてね」と呟くように言うと、軽く頷き、退出してもいいと告げた。


 ドアを出ていく時に、医師と看護師が何か話していた。おそらく恋人間のドメスティックバイオレンス、いわゆるデートDVとして通報するべきかどうか、相談していたのだろう。


 もしかしたら、通報されれば、永里は保護され、俺は聴取をうけるのかもしれない。そうなれば、永里と共に行動することはできなくなり、永里も一緒に遊園地に行くという約束は守れなくなる。


 その方がいいのではないだろうか? 警察の権力で止められているから、一緒には行かれない……。


 力なく首を振った。浅はか過ぎる。そんな理屈が通じる相手じゃないことぐらい、分かっているはずなのに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る