第118話
「できない。やっぱりそんなこと、できない」頭を抱えて、うめいた。
「紘大君。わかった。南由のことも、ちゃんとしよう? ごめんね。南由を大事にしている紘大君だから、紘大君のこと、好きになったのにね」
永里はトーストとコーヒーが載った木のトレーを運んできて、コトっと小さな音をたてて、テーブルに置いた。隣に座って、そっとよりかかってくる。
「ごめんな」
「ううん。私の方こそ、ごめんね」
朝食を食べると、ようやく頭が働き始めた。食器が乗った木のトレーをそれぞれ持って、キッチンに片付ける。
それから、リュックに手を伸ばして引き寄せ、不動産屋の女社長がくれた、メモ帳と消せるボールペンを取り出して、テーブルの上に出した。
「これ、暗号だと思うんだ」
「暗号?」
「あ、いや、暗号なんて大げさだな。でも何かのメッセージ。あの女社長は、あの部屋に霊が憑いていることを知っていたんだと思う。南由のことも、霊絡みだと知っていたんだ。だけど俺たちにそう言えば、あの息子が黙っちゃいないだろ? それにもしかしたら、怨霊の方も攻撃してくるのかもしれない。だから人の目と悪霊の目をごまかすために、暗号にしてヒントをくれた……のかもしれない」
テーブルの上では、メモ帳が自然に開いている。暗号が伝わるように、九枝の社長が、ギュッとページを押さえたのだろう。
「鉛筆ある?」
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