第116話
しかし考えてみると、最初に会った時、永里は南由を追い詰めた犯人を見つけたいんだ、と言っていた。
そして確かに犯人の潮田を見つけた……。
だけど、潮田が怨霊のようなものに操られていたのだと知ると、自分も九枝不動産屋に一緒に行くと、あれほどこだわっていたのに、この変わりようはなんだ?
……いや、待て。永里が九枝不動産に行こうとしたのは、自分を捕えている怨霊を振り払いたかったからだ……。
「てんけい」は、南由が欲しいと言っていた。
永里は俺を手に入れ、そして俺も永里を手に入れた。結果的には、「てんけい」の言った通り、南由をひとりぼっちであの部屋に置き去りにしたことになる。
ならば頭痛も消えるはずだ。
永里にしてみれば、解決した、そういうことなのかもしれない。そう考えたとしても、おかしくはない。永里は、南由が今もあの部屋で怨霊に怯えていることを知らないのだから。
見つめると、永里は笑みを返してきた。この自然な笑顔が、何かに操られた笑顔だとは思えない。いや、思いたくない。もし怨霊に取りつかれているせいだとしたら、俺への気持ちもまやかしだということになってしまう。
大丈夫だ。怨霊の言うとおりにした後も、永里は笑顔を向けてくれているのだから。
永里は「コーヒーだね」というと、ベッドから抜け出すと、立ち上がってキッチンに入って行った。目を凝らしてみても、潮田に馬乗りになっていた霊などは永里の回りには見えなかった。
俺たちが南由を見捨てれば、南由は怨霊のものになる。それはつまり、南由を犠牲にするということだ。そうする、と一度は決めたはずだった。だけど。
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