第115話

 翌朝、永里の匂いがする寝具に包まれて目を覚ました。家全体に漂っている香りを強くしたような匂いだ。隣に寝ている永里の首と肩の間に顔をもぐりこませ、匂いを嗅いでみる。


 「あー、同じ匂いだ」

 「部屋と?」


 「そうだけど、どっちかといえば、ベッドと」というと、永里は少し不安そうに自分の腕の匂いを嗅いだ。


 「わかんない」

 「だろうね。自分の匂いって自分ではわからないから。でもいい匂いだよ」


 永里はどんな匂いなのか気になるのか、眉根を寄せて布団を鼻の下まで引き上げて匂いを嗅ぐそぶりをみせた。だから永里に抱きついて大げさに匂いを嗅ぎ「ほら、いい匂いだ。昨日食べたステーキより美味しそう」と言った。


 「もー! ステーキと比べる?」と、笑って永里が叩いてくる。「ね、朝ごはん、トーストとコーヒーか紅茶でいいかな?」


 「ああ、いいよ。ちょっと考えたいこともあるから、コーヒーもらえる?」

 「うん。いいけど、考えたいことって?」

 「南由の事……」

 「……それはもう、いいんじゃない?」

 「もういいって……?」


 「だって、そうじゃない。南由をストーカーしていた潮田は死んだんだよ? もう終わりにしていいんじゃない?」


 「え……?」


 とまどって口ごもってしまった。


 確かに、てんけいの通りにすれば、永里だけは守れる、と思った。だけど、それは南由を怨霊から救い出すのを諦めることとは別だと思っていた。永里は違ったんだろうか?

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