第109話
「らんぼうしたのは、なゆでしょ? あたしはなにもしてないのに。なゆがつきとばした!」
髪がぼさぼさなことに目をつぶれば可愛いといえなくもなかった顔が、みるみる歪んで……、泣きそうになる。
ふいに少女が負っている心の傷が見えた気がした。きっとずっと昔から、治らない傷を心に抱えているんだ。
ぬいぐるみでぶたれながら、可哀そう……、という感情が沸き上がる。
しかし、次の瞬間、私はギュッと目を閉じた。
少女の顔が、焼けただれ、見る間に
バシ、バシ、とクマで殴りつけているその手も、黒焦げだ。焦げた腕から、肉片が飛び散って床を汚す。そしてピチッと濡れた音をさせて、私の顔の真ん中に肉片があたって貼り付いた。
「ひっ……。いや……、助けて、誰か! 紘くん、助けてぇ……!」
顔にくっついた肉片を払い落して、泣き叫んだ。自分の声とは思えないような、ひび割れた叫び声が、耳をつんざく。
もう何も見たくない。聞きたくない。目をギュッと閉じ、耳を手でふさいでじりじりと後ろに下がる。
「あはは! なゆ、こわいの? 泣いてるね?」
灰色の目の少女は機嫌を直した声で言って、私の腕を掴んで耳から引きはがした。
「目をあけなよ、なゆ」
目なんか、開けられるわけない。それでなくとも、焼けただれ崩れかけている顔は、目を開けなくたって、脳裏に焦げ付いてしまったというのに。あの顔をもう一度見るなんてどうしたって出来っこない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます