第108話

 女の子がいつも手にぶら下げるようにして持っているクマの縫いぐるみは、薄汚れて汚い。目も取れて、糸でぶら下がっている。だから縫い直してあげるといったのに、このままでいい、と首を振ったから、そのままになっている。


 「ねえっ、爪、噛んでるよ」


 少女はびっくりするほどの力で、私の手を引っ張って口元から引きはがすと、自分の手に乗せて、角度をかえたりしながら、じっくり見はじめた。


 「分かってるってば! 離して」


 イライラして、手を振りほどいてしまった。女の子はすとんと尻もちを付いた。幻影だとしても、私の相手をしてくれる唯一の相手だというのに。


 「あ、ご、ごめんね。わざとじゃないの……」と手を伸ばした。バシッと手を払いのけられる。


 まずい、と思ったが、遅かった。


 「なに、するの?」

 「ごめん……、でもわざとじゃ……」


 「らんぼうしたよね? つきとばしたよね? あたし、なんにもわるいことしてないのに」


 少女はいつも手に持っている縫いぐるみを、私の顔にたたきつけた。クマの顔に糸でぶら下がっている目玉が、私の頬を叩き、ペチっと間抜けな音を立てる。


 「ごめんなさい」


 「ごめんなさいじゃないよ! なゆのバカ!」


 バシ、バシと力いっぱい縫いぐるみを繰り返しぶつけてくる。


 「やめて」

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