第104話
悲鳴のような声を上げて遮ってしまった。自分の声の怯えに、恥ずかしさを感じないわけではないが、体裁を繕っていられないほどだった。頭の中にたった今、響いていた声とまったく同じ口調を永里の口から聞かされるのが恐ろしかった。
「すみません」と、永里が小さく謝った。「怨霊か何か……の言葉なのに、天啓なんて言い方、おかしいですよね。でもとりあえず他の言い方がないし……」と、うつむいた。
そして心を決めたように、息を吸い込んだ。
「呼び名はともかく、私も聞いているんですよ。紘大君よりも前から、です。だから、申し訳ないですけど、自分一人だけじゃなかったとホッとして、ちょっと嬉しくて」とチロリ、と舌を出す。かわいい、と思った。
けれど……、こんなのはおかしい。赤い舌を見た途端、欲情が湧き上がってくるなんて。
「はっ、あ」と吐く息が熱くなる。こんなのは、どう考えてもおかしい。
しかし、衝動というのは、コントロールできるものではないんだろう。体が熱くなる。
シャランと耳元で音がする。この気持ちは「てんけい」のせいなのだろうか? 永里がほしいのも、永里を奪いたいという欲望も、すべて「てんけい」のせい、なのか?
南由をひとりぼっちにするための、怨霊の策略……?
そうだとすれば、抗わなければ。強まる痛みに、ギリッと奥歯を噛みしめて耐える。
どのくらいの時間、そうしていたのだろう。アイスコーヒーの氷が溶けてカラン、と音をたてて崩れた。
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