第103話

 言い訳をしながら、アイスコーヒーを手に取ろうとして、テーブル越しに永里の手をしっかりと握っていることに気が付いた。しかもこの瞬間も指先に永里の肌の感触をたえまなく感じている。どうやら頭の中の声に集中するあまり、無意識に永里の手を指でなぞっていたらしい。指先からささやかな快楽の感触が遅れてそろりと這い上がってくる。


 「あ、ごめっ……」


 遠くから意識が体の中にもどってくると、急に気恥ずかしくなり、永里の手を離してアイスコーヒーのグラスをつかんだ。ゴクゴク、と喉をならす。


 永里に変に思われたのでは、と盗み見ると、気のせいかわずかに寂しそうな表情をしているような気がする。乱暴に手を振りほどいてしまったせいかもしれない。


 「ほんと、ごめん。なんだか頭が……じんじんして。それで、」声が、と言いかけて止まる。そんなことを言っていいのだろうか? おかしな奴、と思われないだろうか? と思ったのだ。


 「天啓。ちがいます?」永里は一言ずつゆっくりとてんけい、と発音した。


 「てんけい……。あれが?」

 「はい、たぶん。頭が痛くなって、いいなあぁ、欲しいなぁ……って」

 「や、やめてくれっ!」

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