第100話

 「そうだね」と、永里に相槌を打ちながら、手元に戻ってきたボールペンを見る。「あれ……? これも俺のじゃない」


 愛用のボールペンによく似た消せるボールペンだが、俺の物はクリップがバネになっているのだ。手渡されたボールペンは、ただ差し込むだけのタイプのクリップだった。


 念のため、背中に背負っていた、ワンショルダーのボディバッグを下し中からボールペンを引っ張りだす。


 「やっぱり、俺のボールペンはある」

 「ええ? まさか、間違えたんですかね?」


 「まあ、俺が持っているボールペンも消せるボールペンだし、デザインも似ているけど」と二本のボールペンを並べて見せると、永里も手元を覗き込んで、首を傾げた。


 「変なの……。メモ帳は、不動産業界のものをくれたんですよね」


 「そうだね」と、手帳も永里に手渡そうとすると、ぱらりとページが開いた。


 「あれ? 使いかけをくれたのか?」と全体をパラパラとめくってみたが、何も書いていなかった。


 自然にページが開く箇所に戻ってみると、色はないが、文字が書いた跡がある。


 「ああ、なるほど。これは消せるボールペンで書いてから、消したんだな」と永里にも見せる。ペンの上に付いているゴムでこすらずに、わざわざドライヤーか何かを使って文字を消したから、メモパッドに熱が残っていたのだろう。


 「なんて書いてあったのかなあ……。ちょっと気になりません?」

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