第99話
カウンターに置き忘れてきたのだろうか?
「ありがとうございます」と受け取った。メモ帳は日向に置いてあったのか、触ると熱を持っていた。
「あれ? でもこのメモ帳は、僕のではないです」とメモ帳だけを返そうとすると押し返し、「いいのいいの! せっかく来てくれたんだからあげる。使って。ゴメンね、お嬢さんにも嫌な思いをさせちゃって」と言う。
「いいえ」永里が気丈に笑顔を作って首をふる。けなげさに繋いだままだった手に、きゅっと力を入れた。
「中にもね、絵が描いてあるのよ」
「イラストですか?」と手元に目を落とすと、「不動産協会が使っているキャラクターなのよ。だけど、もともとは何かの絵本のキャラクターなんでしょ?」と、慌てたように後ずさった。
そして「じゃあ」と踵をかえすと、小走りに店に戻っていった。その後姿が、逃げて行くように見えて、目で追っていると、走りながら肩越しに振り返った。
追いかけてくるものを振り切れたか、確認するような仕草だ。俺と目が合うと、遠くからでもみてとれるほど、ギクリと肩を震わせた。ごまかす様に会釈し、今度こそ、振り返ることなく走り去った。
「元気な方ですね」
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