第87話

 「いいんです。だから私たち、あの事件の原因を調べていて、ストーカーが犯人だと思ったんですよ」


 「いやー、それはどうかなぁ」と急に店長の歯切れが悪くなる。


額に浮かんだ汗を仏事用の白いハンカチで拭い、ビールをゴクゴク、と喉を鳴らして飲んだ。


 「実は俺、見たんですよ。」


 「え……、何を?」三浦が怯えて俺の顔を見る。


 「病院から帰る時、潮田の上に幽霊が乗っかっていたんです」

 「なんだよ、それ。聞いてないよ」


 三浦が首を振りながら、体を起してソファの背にくっつける。


 「髪が長い、女でした。ザ・幽霊っていう感じの」


 三浦の顔が強張り、怯えているのがわかったが、かまわず話し続ける。あの女の怨霊の手がかりが掴めそうなのだ。やめるわけにはいかない。


 「やめろよ。潮田が死んだのは、病気だろ?」

 「そういえば、潮田さんも頭を痛がっていましたね……」永里が呟く。


 「やめろって」


 三浦はメニューを手に取って、慌ただしくめくった。そしてやけくそ気味に呼び出しボタンを押すと、「トマトとバジルとモッツアレラチーズのサラダ」とやってきたウェイトレスに追加を頼んだ。


 「潮田が謎の頭痛に苦しみだしたのは、ボールがあたってからなんですよ。本人に会って聞いたんです。ボールを投げた犯人は本当にわからないんですか?」


 「あ、ああ……」と店長はビールを煽る様に飲み干すと、ビール瓶を手に取り手酌で注いだ。

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