第83話

 「うらやましいよね」と店長が頷く。

「ほら、うちからわりと近所の、黒っぽいお洒落なマンションだよ」


 「あっ、そのマンション、知っています。友達が住んでいたんです」と永里の声が高くなる。友達というのは南由のことだろう。


 「お友達が住んでいたの? 何か言ってなかった? あのマンションってさ、大きな声では言えないけど、コレが出るらしいよ」と店長はふざけた顔で両手を胸の前でブラブラさせる。


 「やめてくださいよ。幽霊なんかいるわけないでしょ」と三浦が顔をしかめた。


 「いや、住んでいる子が、幽霊が出るって言っていたんですよ。ちょっと詳しく聞かせてもらえませんか?」と、口を挟んだ。南由の部屋にいる「誰か」は、きっと人間ではない。南由を手に入れるために潮田にとり憑き、仲間に引き入れたナニカに違いないと思う。


 南由の所にすぐにでも飛んで行ってやりたい気持ちは山々だが、相手が人間じゃないなら、行ってもどうすることも出来ない。それなら情報を集めて対策を考えた方がいいだろう。


 「ええ? 本当? 気持ち悪いなあ」と店長は渋っていたが、通夜振る舞いの席で軽く食事をとったせいで、空腹が刺激されたのがよかった。結局「じゃあ、少しなにか食べながらでも」とファミリーレストランに場所を移すことになったのだ。

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