第70話
見るともなしに覗いてしまった扉の隙間から目に飛び込んできたのは、小さな手形だった。浴室の壁にも天井にも、赤や黒、色のない手の跡がべったりと付けられている。
そして浴槽の中には、長い黒髪を背中に垂らした少女がいて、背中をこちらに向けて、ペタリ、ペタリと水滴で濡れた壁に手を押し付け、飽きることなく手形を増やしていた。
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