第65話

 「点滴、終わっているので、このまま外しておきますね。潮田さん、痛がっていたみたいですけど、いつもの頭痛? 大丈夫ですか?」


 潮田は「ええ、さっき急に痛んで……。でももう大丈夫です」と笑顔まで見せている。


 「潮田さんの頭痛、ひどいですものね。なにかあったら、また呼んでくださいね」と言うと、看護師さんは病室を出て行った。


 「君たちも、もう帰ってくれよ」


 潮田は正気の目をしたまま、そう言った。

 そして、「さよなら」というと、目をつむった。ごろりと転がって背中を向け、全身で拒否しているみたいだ。


 三浦と永理に目配せし、「じゃあ、帰るよ。ゆっくり休めよ」と潮田に声をかけた。三浦と永理も「お大事に」「またな」と型通りの挨拶をすると、逃げるように病室から出た。


 潮田に何が起こったのか、モヤモヤとする気持ちを抱えたまま、何を聞けばいいのかも思いつかずに、二人に続いて病室から出ようとした時、潮田の声が小さく聞こえた。呼び止められたのだろうか? と、思って振り向いた。


 「家族は一緒にいるべき南由ちゃんは僕と一緒にいるべき家族はいっしょにいるべき南由ちゃんはぼくといっしょにいるべきかぞくはいっしょに……」


 ブツブツと同じことを繰り返す潮田の上に、女性が馬乗りになっていた。あれはきっと……、人間じゃない。


 長い髪が顔を覆っていて女の表情は見えないが、潮田の頭を両手で締め付けている。

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