第60話

 しかし永里を見て、よどみなく南由の親友だと言って笑みを浮かべる姿は、それだけで潮田の南由への執着を感じさせて気味が悪い。


 潮田が南由を付け回していたのではないとすれば、南由と会ったのは、あの飲み会があった、二年以上前のことなのだから。疑惑のあぶくがぷくんと生まれる。


 「君も知っているよ。南由ちゃんのともだち、だよね」とわずかに震える人差し指で俺を指さしてくる。彼氏だ、と否定したかったが、潮田の感情を害しては、聞きたいことも聞けなくなってしまうかもしれない。


 「そうです」と肯定しておいて、「大変でしたね。いつから、入院しているんですか?」と聞く。入院の時期によっては、ストーカー犯は潮田ではないことになる。


 潮田という男には初めて会ったが、陰湿な印象だ。じっとりとした目で見られると、来たばかりなのにもう帰りたくなってくる。いつから入院しているのか、というのは、ストーカーかどうかを確かめるには、一番てっとりばやい質問に思えた。


 「僕の病気ね、原因不明らしいよ。その名も不明熱、っていうんだってさ。ふざけた名前だよなあ……。そのままじゃないか」


 「それで、いつから」

 「急かすなよ。頭が痛くて、考えるのもしゃべるのも大変なんだ」

 「あ、ああ。すまない」


 潮田の喉から、ゴロゴロと音が漏れ出る。痰がからまっているのだ。息を吸ったり吐いたりするたびに、喉がヒュー、ゼロゼロと音をたてる。

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