第57話

 「ねえ」


 無視していたら、手を揺すぶられた。「ねえ」「ねえ」「ねえ」……「ねえ!」……「ねえ、ってば!」だんだんと強くなる語調。目を開けなければどうなるか、なぜか私には分かってしまう。


 きっと、割れるような頭痛が、絶え間なく襲ってくるんだ。それに体中、小さな手で真っ赤に腫れるほどつねられるに違いない。


 目を開けるしかない。


 何かあったらすぐに閉じられるように警戒しながら、仕方なく瞼を持ち上げた。けれど目に映ったものに驚いて、目を見開いた。


 目の前に立っているのは、声に違わぬ幼い少女だった。どこかで会ったことがあるような気がするが、思い出せそうで思い出せない。けれど、こんなに特徴的な子、一度見たら忘れないだろうから、見おぼえがある気がするのは勘違いかもしれないな……。


 生まれてから一度も切られていないような不揃いな髪が、だらりと背中に垂れている。手には片方の目玉が取れた、クマのぬいぐるみ。顔に垂れた長い前髪の間から灰色の瞳が覗いている。灰色。色素が薄いのだろうか……?


 「ねえ、あそぼう?」


 灰色の瞳の少女がにっこり笑う。


 「だってお姉ちゃんの友達は、他の友達と楽しく遊んでいるじゃない。お姉ちゃんが私と遊んだって、誰も気・に・し・な・い・よ……」


 少女の手は私の手を握っているというのに、少女は何もしていないというのに、その言葉は、私の胸をギュッと握りつぶした。


 紘くんは違う。私を忘れたりなんかしない、と反論したいのに、「探偵ごっこみたい」とさっき自分で思ったことが喉に引っ掛かって、言葉が出てこない……。

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