第56話

 突然、怒り狂った女の子の声が頭の中で響き渡った。これはただの想像か白昼夢。私の頭の中で叫んでいるだけなんだから、少しの間だけ耐えれば消えてなくなるはず。目を固くつぶって頭をぎゅっと抱えて。


 それなのに、突然足に違和感がはしった。細く、細く目を開けてみると、小さな手が、私の足を握りしめていた。四歳か五歳くらいの子供の手だろうか。小さい。幼い子の手といえば、ふっくらとしているものだと思っていたけれど、その手は干からびたゴボウみたいに骨ばって、黒く汚れていた。小さな子の手なのに、可愛らしさはまったくない。


 「気持ち悪……」って思ってしまったのは、対外的につくろっていない、不自然な物に対する本能的な反射だ。口には出していないのに、その小さな手に力が込められ、一瞬で節くれだった。


 「あッ! 痛い、やめて!」


 私は座り込んで足を抱えた。手も頭も痛い。体を丸くちぢこめるようにして、小さな手から逃げる。


 「ねえ、それって、かくれんぼしているつもりなの? ふーん、いいよ、あそぼう。楽しそう。おかーさん、早くおにーちゃんを連れてきて」


 「……」

 「わかった、いい子でおるすばんしてるね。いってらっしゃい、おかーさん! ねえねえ、鬼ごっこしよう? どっちが先に鬼になる?」


 急に甘ったるく話しかけられ、小さな手が、そっと私の手を握る。先ほどまで割れるように痛かった頭痛がふっつり消えた。


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