第26話

 紘くんが帰ったその瞬間から、私は背中にぞわり、と感じる視線に苛まれる。もうこのところ、ずっと。だから私は目をつむる。誰ともわからない視線から、逃げるようにして。

 それなのに、昼間うたた寝してしまったせいか一向に眠気は訪れず、閉じた瞼の下で目は冴える。


 シャラン、と微かな音が耳朶じだを打つ。聞きなれた窓辺に飾った硝子細工が揺れる音だ。風を感じるその音は、とても優しくて……、ようやくほのかな眠気が訪れてきた。


 ティンロンと、床に転がっていたスマートフォンから通知音がなる。薄暗い室内に、つむった瞼の向こうで小さな灯りが点滅しはじめる。


 ーー蛍みたい。紘くんが私を呼んでるんだーー


 そう思ったけれど、シャラン、シャラン、と耳に響く音が心地よくて、もう目を開けられない……。


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