第2話

 怖かったから、昨日も薬を渡されたけど、本当は飲みたくなかった。だってあたしは不眠症じゃないもの。だけどそう言ったら、あの人は怖い顔をした。だから飲んだかもしれない……。どうだったかな? 思い出せない。


 眠い。このまま寝ていたい。だけどどんどん息苦しくなってきて、ゴホゴホ咳き込んだ。それでやっと無理やり瞼を持ち上げると、目に映ったものはうごめく赤。


 まさか……火?


 慌てて体を起こして見回したら、もう部屋中を炎が這いまわっていた。たった一つの出入口の玄関の前は、特に火の勢いが激しくて近寄れそうもなかった。


 窓、と目をやったけれど、白いレースのカーテンを下から炎が舐めあげている。化繊が焼ける匂いと黒い煙。空気そのものが燃えているような熱さ! 息苦しさに床に手をつく。


 どうしてこんな状況になるまで、眠っていられたのかな? 本当にあたしはだめだ。あの人の言う通りなんだ。


 それにしても、いつ、どうして、火が付いたのかな。あたしは寝ていたのに。あの人はいないみたいだ。いつの間にか帰ったのだろう。もしあの人がいたら、火が燃えている理由を教えてくれただろう。そして火を消してくれると思う。あの人はあたしとちがって、とても頭がいいから。


 空気を求めて、起こした体をまた低くする。上の空気の方が熱かった。狭まった視界を炎がさらに埋め尽くしていく。

 まだ火のついていない場所はもうほんの少ししかない。

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