えりぼむ
和來 花果(かずき かのか)
序
第1話
耳慣れない音が夢にしのびこんできた。始めはほんの小さな音。カサ……カサ……虫が這いまわっているような……。
正体の分からない気味の悪さに、目を開けなきゃ、って思う。けれど気持ちとはうらはらに、あたしの目は固く閉じ、体もずっしりと重い。どろりとした泥のぬかるみみたいな眠りに、無理やり足をひっぱられて、引きずり込まれていくみたいな感じ。
この感じには覚えがある。まだあたしが四歳か五歳くらいだった頃、長靴をはいて、水かさの上がった川べりを歩いていたら、ずるりとすべって、川の水の中に足を突っ込んでしまった。泥に長靴がしっかりつかまってしまって、足を引き抜こうとしてもぜんぜん動かなかった……。
でも、ちがう。これはちがう。川のぬかるみなんかじゃなくて、もっとずっと危険なモノなんだ。
のんびりしている場合じゃないって、体が叫んでいる。早く、早く……。
どうしてこんなことになったのか、思い出さなきゃ。ええと。この体の感じはねむり薬のせいかもしれない。一か月くらい前に、あの人がすぐに眠れるよ、とくれたねむり薬。試しに飲んでみてごらんと渡された。さあ、早く、とあたしがくすりを飲むまでじっと見ているから、仕方なく薬を口に入れた。あの時とおんなじ感じがする。
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