第3話

 燃えさかる炎が怖くて目を瞑り、息を止める。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。


 誰かが消防車を呼んでくれたのかな。誰かさん、ありがとう。だけどきっと、あたしはもう……。

 あたしの指の間から、いのちにすがりつく気持ちがするりとこぼれ落ちた。


 でもそれもいいよね。もういいよね。

 あたしには無理だったんだ。無理だけど……、ただ、生きたかったな。

 全身の力を抜く。そしてそっとお腹に手を当てる。もう習慣になっている。

 この子とふたり……。


 だってね、あたしが小さい時、いつだってみそっかすだったから、おままごとでお母さん役をやらせてもらえなかった。


 だけどこの子のおかあさんはあたし。だからミルクをあげたり、手を繋いでお買い物に行ったり、髪の毛を梳かしてあげたり……。髪の毛は、長い方がいいな。あたし、痛くないように髪の毛を梳かすやり方を知っているんだから……。うんとやさしくしてあげるの。泣いてもぶったりしないんだ。だって赤ちゃんはお話できないから、泣くしかないんだと思う。だから、泣いたらぶつかわりに抱っこしてあげるんだ。抱っこして、いい子いい子して……。


 けむりを吸って、働かなくなったあたまの中に、小さな女の子と一緒の生活がぐるぐると巡る。


 「ママ」


 ふいに高い声に呼びかけられ、小さな手が私の手を握ってくる。


 「ママ、行こうよ」

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