現在⑪

 十年ぶりに見る姉は、幼子のような、奇妙に無邪気な瞳をしていた。

 弓子は面会の中央に座る。透明なアクリル板越しに、姉が座っていた。アクリル板にはいくつかの穴が開いていて、声が届くようになっていた。

「…久しぶり」

 声がかすれた。弓子は、咳払いをして、言い直す。

「お姉ちゃん。家を出て以来だね」

 姉は何も言わなかった。ふわふわとした、微笑みを浮かべて弓子を見ていた。

 様子がおかしい、と弓子は眉根を寄せた。姉は激しい気性の人間だった。弓子を憎んでいるはずだった。会わない間に、人というのはこんなに変わるものなのだろうか。

 姉が突然はっとしたように目を見開き、立ち上がった。姉の背後にいた警察官がすぐ姉に近寄ってくる。

 姉は、アクリル板に手をのばし、弓子を見下ろした。

 その口は中途半端に開かれ、目には、明らかな恍惚が浮かんでいた。

 その表情に、弓子は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 姉は警察官に肩をつかまれ、すぐに椅子に座らされた。けれどその表情は損なわれることなく、崇拝するものをめでるように、いつまでも弓子を見つめていた。


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