現在⑪
十年ぶりに見る姉は、幼子のような、奇妙に無邪気な瞳をしていた。
弓子は面会の中央に座る。透明なアクリル板越しに、姉が座っていた。アクリル板にはいくつかの穴が開いていて、声が届くようになっていた。
「…久しぶり」
声がかすれた。弓子は、咳払いをして、言い直す。
「お姉ちゃん。家を出て以来だね」
姉は何も言わなかった。ふわふわとした、微笑みを浮かべて弓子を見ていた。
様子がおかしい、と弓子は眉根を寄せた。姉は激しい気性の人間だった。弓子を憎んでいるはずだった。会わない間に、人というのはこんなに変わるものなのだろうか。
姉が突然はっとしたように目を見開き、立ち上がった。姉の背後にいた警察官がすぐ姉に近寄ってくる。
姉は、アクリル板に手をのばし、弓子を見下ろした。
その口は中途半端に開かれ、目には、明らかな恍惚が浮かんでいた。
その表情に、弓子は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
姉は警察官に肩をつかまれ、すぐに椅子に座らされた。けれどその表情は損なわれることなく、崇拝するものをめでるように、いつまでも弓子を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます