出演者④ - 殺人中毒者
彼は狂っていた。どうしようもなく、どうしようなく────
「あぁ……今、あそこのビルの上から人が落ちなかったか?」
彼は狂っている。どうしようもなく、どうしようもなく────
「あぁ……なんであんな死に方をするんだ……」
彼は狂うしかなかった。どうしようもなく、どうしようもなく────
「どうせ死ぬなら……」
彼は狂う事が決められていた。どうしようもなく、どうしようなく────
「俺が殺したかった」
{何言ってんだこの薄鈍!まだ息をしてるかもしれねえんだからビルの下を見てこい}
【えぇ、怖いよぉ。落下死した死体なんて見たくないよぉ】
{テメェはまたそんな事を言いやがって。この容姿でその口調になるとうざくて仕方ねえ!}
「少し黙ってくれないか……ここは人目が……」
{テメェがこんな街中を歩くからだろ!ていうか大体こんな街中を堂々と歩く原因になったのはマガトのせいだろ!}
《それは否定しないが……しかし私の勘が冴えていたのも事実だ。誰かが死ぬ気配がしたんだよ。さっき飛び降りた人にはまだ息の根があるかもしれない。ギャレス、
街中を堂々と歩く
見た目からもすぐに白人の外国人という事がわかるその男は、先程からブツブツと独り言をずっと呟いているのだ。
しかしその独り言はかなり特徴的で、口調や声色がコロコロと変化する。
一人は気弱、一人は乱暴、一人は臆病、一人は────
街行く人たちは一々変わる口調に何かの映画撮影や演技でもしているのかと思ったが、カメラマンらしき人物は特に見当たらない為、自分から近付こうという物好きは中々いなかった。
[にしても酷いものよなぁ、ギャレスの殺人衝動はどうにかならんもんかね]
【アキナ姉さん……そればっかりは仕方ないよ。ギャレス兄さんは私達兄弟の中でも二番目に狂っているから……】
[これメイナ。仮にも兄であるギャレスを狂っているなんて呼びなさんな]
「良いんだ……実際俺は狂っているからな」
{マイナスな発言はよせようざったらしい!狂ってるって自覚があるならもっと道化を堂々と演じろ!お前はいつも中途半端なんだよ!}
《そう言ってやるなヴァイラ。私達成り立っているのはギャレスの身体のお陰だ。少しでもギャレスの心に負担かけない言葉を選ばなければ》
[せやなぁ……マガトの言う通りギャレスの心が歪み過ぎると
【嫌だなぁ……あの人が起きたら当分の間喋る事すらできないんだもん】
『ある人』についてそれぞれの人格が語りながらビルの下へと歩いていく。
〈安心せい。アイツはギャレスが乱れない限り出てこない〉
《なんだ、フリラさんも起きてたんですね》
〈少しギャレス乃心に歪みを感じてな。様子見じゃよ。ヴァイラよ、少し言葉を優しくしたれ〉
{チッ……不満な事を口にして何が悪いってんだ。そもそも全員『アイツ』に怯えすぎなのさ!ギャレスが相当乱れない限り起きる事なんて無いんだぜ?今までだってそうだろ?この前起きたのは六年前、その前は更に四年前だ!怯えるだけ時間の無駄って奴だぜ}
〈確かに……ヴァイラの言う事も正しい。しかし念には念をって奴じゃ。少しでも可能性を消す為にな〉
「取り敢えずみんな裏路地に入るまで話すのを少し控えてくれ……周りの視線が……」
ギャレスがそう言うと数秒間の沈黙が訪れた。
辺りにはギャレスを避けるような人溜まりが出来ており、皆揃って不思議そうな目線を向けていた。
その様子を見るとギャレスの何かに怯えているような弱気な顔が一気に怒気を含んだ。それはまるで別人にでも人格が変わった様に見え、辺りの人々は少しばかり目の前の男の気迫に呑まれかけた。
{何見てんだ!今すぐその四肢をぶち折ってやろうか!?}
[これ、やめんか。ギャレス、裏路地に走りんさい]
アキナの言葉通りギャレスは人混みを嗅ぎ分けて裏路地へと走った。
何故をこんな身体になってしまったのか。
何故自分が皆の
そんな疑問を、今日も頭に抱えたまま────
暫く裏路地を走っていると、最初に目的地に設定していた男が飛び降りたビルの付近まで来ていた。
「ここら辺だよな……」
【本当に落ちた人を見つけるの?気持ち悪いよ……】
ギャレスの身体に似つかないメイナの子供っぽい声が裏路地に響いたが、ギャレスはそんな言葉に耳を傾けずビルの真下へと走り出す。
────ダメだ、そろそろ殺さないと。
────俺が
月明かりが僅かに差し込む暗い裏路地。
その中を息を切らしながらギャレスは走る。
────あの角を曲がれば……
もう少しで男が落ちた場所に辿り着く所だった。
しかし、その前にほんの少しのハプニングが起きた。
「上から死の匂いはしないし大丈夫かな……おっと」
角を曲がった所でギャレスの身体に当たり、思わず地面に尻餅をついた男が現れた。
外国人と思わしき男はギャレスを見るとすぐに自分の力で立ち上がり「ごめんごめん。気にしないで」と気さくに言い放ってその場を後にした。
一方ギャレスはそんな男に目も向けず、前進を再開する。
後少し、後少し────
もう少しでとどめをさせるかもしれない────
そう思っていた。だからこそギャレスは目を疑った。
何故ならそこには人という物体そのものが無かったのだから────
「どうして……」
《おかしい。確かにここに落ちた影は居たはずだ。私の目に狂いは無い》
{何だ?マガトもたまには計算ミスをするんだな。ハハッ!いいね!滑稽だぜ!}
《いや、そんな事は無い。確かにここに居た筈だ。壁に隣接して置いてある物を見ろ》
マガトが指を
《恐らく中間障害物になったんだ。かなりの凹み……地面に衝突する前にアレにぶつかったに違いない》
[でも妙じゃ無いかい?そんなに強い衝撃なのに何で辺りに血痕が存在しないんだい?]
アキナの言う通り、周りに血は確認されなかった。
あの高さからの落下なら血が飛び散っていているのが普通だろう。
しかし地面のコンクリートには特に異常はなく、原色を留めている。
「アイツだ……」
そんな光景を見たギャレスはふと、さっきぶつかった男を思い出す。
外国人風の装いの男。
「きっとアイツが俺の獲物を横取りしたんだ」
「アイツを……殺さないと」
【え、何でそうなるの?】
[ギャレスらしいけど……]
{ハハッ!いいね!久々にギャレスを見直したぜ!}
《おい!私達が今この地に居る理由を忘れたのか!》
こうして殺人中毒者はあの男────
歯車が動き出す────
× ×
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