第4話・常連さんの話

 携帯電話を買いに来るお客さまは当然、怖い方ばかりではありません、普通の方が大半です。


 中にはフレンドリー過ぎて毎日のように顔を見せに来られる方もいました。特に携帯に関する用事が無くても、「暇なんでしょ?」と遊びに来る常連さん。


 はい、確かに平日のショップは繁忙店でもなければ暇なことが多いです。でも平日は平日なりにすることあるんすけどね。


 契約書類の整理だって、本社への報告だって、ポスティングも店舗の掃除だってやろうと思えば仕事なんていくらでもあるんです。でも、店頭に客の姿が無ければ暇って思われてしまうんですよね。


 この暇潰しに来る常連さんって、はたから見たら店員と仲の良いお客さまって感じに見えると思うんです。実際には、意外とそうでも無い方も多かったりします。こちらは商売ですから、どんな方とでも楽しい会話をする努力をします。


 でも、それを勘違いされる方が多い多い! ショップのお姉ちゃんが大笑いしながら親しげにしゃべってるからって、本当に楽しいと思ってるかと言えば、微妙。


 おしゃべりが盛り上がった勢いでメアド聞こうなんて甘い!


 客商売って可愛がってもらって贔屓にしてもらってナンボって言うじゃないですか? 携帯屋さんも同じで、契約してもらって贔屓にしてもらって、さらに客を紹介してもらってナンボです。


 紹介での売上って実際にも結構な台数になるんですよね。そんなことを言いつつも、常連さんの顔を見るとホッとする時もあります。


 特に怖いお客さまのクレーム対応の後なんて、自分の接客に自信が無くなりそうになったり、人間不信に陥りそうになったりすることもあるんです。そういう時、用事が無くてもわざわざ顔を見に来てくれるお客さまの存在が接客に対する自信に繋がったりします。


 親しくさせていただいてるだけに、常連さんからいろんな差し入れやプレゼントをいただくこともありました。ショップの前やすぐ隣に自販機がある店ならコーヒーやジュースは定番です。


 迷惑メールが来る度に「これ消して~」と来られたおばさんは、毎回鞄の中から同じ銘柄の缶コーヒーをその時に店頭にいる店員の人数分を出してくれました。一体いつも何本くらい入ってるのか不思議で仕方なかったです。


 あと、毎月の料金を支払いに来る度に”うなぎパイ”をくれるおばさん。決して”うなぎパイ”が身近に買える地域ではないんですが、毎回必ずいただきました。いつも美味しかったです。


 他店の店長では、「店長、趣味悪いねん」と常連さんからネクタイのお下がりを無理矢理に貰ったとか。しかもド派手なヤツを。


 常連さんじゃなくても、「こないだは無理を言っちゃったから」と、ケーキやお菓子の差し入れもあれば、豚マン、菓子パンの差し入れなんかもいただきましたね。あと、牛乳屋さんから残り物(賞味期限ギリギリ!)を大量に。せっかくだからと頑張って飲み過ぎて、お腹を壊すスタッフ続出でした。


 他にはバラ農園の方からバラの花束とか。売り物にならないという物を束ねて持って来てくださったのですが、ものすごく豪華でした。

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