第23話 この町にも活気は戻ってきていますよ。

地震の影響もだいぶ収まり、町に少しずつ活力が見られだした。


最近は、この町の商売に注目されているところもあり、遠くの町からやってくる客もいる。


「あ、ハムザくん、いらっしゃい。あら、ムスタファさん、お久しぶりです。」

「こんにちは。登録申請の書類はありますか?」

「いっぱいありますよ~。えーとねえ…」


ギルドの窓口も繁盛して、今では常時二人体制にしている。


「あー、ムースおじさん。いらっしゃいませ。」

「やあ。どうだい、若い子、頑張ってるかい?」

「おかげさまで。忙しい方が、あの子は性に合ってるみたいですね。朝の水汲みから率先して行ってるもので。」

「水汲みくらいは男の人が行けばいいんじゃないかな?」

「でも、台車使って、頑張ってますよ。他の子も、あれくらい頑張ってほしいもんですよ。」



「お、おぉぉ、今日はまたいっぱいありますねえ。」

「新しい商売をやりたい申請が、けっこう増えています。ギルドの新規登録も、隣町の人がけっこう来ていますよ。」

「ああ、そうか。テントも少なくなって、仕事できる人が増えてきたからでしょうね。あとは、ムスタファさんの方からの用事がありますので。」

「えーとですね、総務部には話をしているので、正式に通達が来ると思うんだけど、このギルドも、夜の部も運営していくことになりそうなんだ。夜も、この窓口を開けることになると思う。それで、この事務所も、少し大きくするかもしれない。

今はまだ仮決定だけど、そういうことになりそうなので、ちょっと、気持ちだけは覚悟していてね。」

「え、そうしたら、時間はどうなるんですか?」

「今の予想だと、昼間に2人、夜に1人でやっていくことになりそうだね。」

「そうしたら、スタッフがまだ増えそうですね。」

「そうなんだ。やりたい人がいたら、ギルドで募集するかもしれないから、その時はよろしく。」

「はい、わかりました。」

「総務からも、常駐で1人就くことになるかもしれませんので。」

「あ、じゃあハムザくんの席を用意しておくわね。」

「あ…、ムスタファさん、もしかして、そういうことなんですか?」

「ん-?さーて、どうかなあ?」

「これは、決定事項、みたいですねぇ。」

「あれ?そういうことだったんですか?え、一緒に行くって…、え?」

周りに笑い声が響いていた。



*  *  *


宿場と酒場が併設しているところは、客の入りが多い。大通り沿いに人気店が立ち並ぶ。繁華街の店は、通りに面している建物が酒場、奥の建物が宿になっている。

その1本裏通りを行くと、少しランクダウンの繁華街になる。そこまでお金を持っていない人でも、飲めて泊まれる宿だ。1階が酒場、2階が宿という、この町では標準的な作りになっている。



カチャッと音がする。扉が開いて、

「飲めますか?」

「あー、今日は…」

と、店主は、客の顔を見ると、

「…、どうぞ。」

「ああ、手前で大丈夫ですから。」

店主は近くで採れた木の実を入れた小皿を出した。

「水割りでいいかな。」

「はい。」

と、一言言うと、コップを一つ用意した。

奥では客が数人、話題を持ち込んで、談笑している。


「はい、どうぞ。」

「ありがとう。あれからどうですか?」

「はい、おかげ様で。」

「そうですか。それは良かった。」

「私は、これしか出来ませんからねえ。」

と、この店を指さした。

「たしか、だいぶ早いうちに、ここ建て替えられたんでしたよね。」

「そうですね。4日後には、もう店も開けましたから。」

「お客さん、増えましたか?」

「この町以外のお客さんが多くなりましたね。初顔が多いです。」

「そうかあ。リピーターになってくれるといいですね。」

「本当に。」


「あ、すいませーん、お酒おかわり~」

「あ、はい。」


と、奥の客にお酒を出して、また戻ってくる。

「お、じゃあ、そろそろ行こうかな。お勘定を。」

「いえいえ、お金なんて。」

「僕は、今日はお客ですから。だからお金は払いますよ。」

「そ…そうですか?それでは。」

「はい、ごちそうさまです。」

ドアを開けて、振り返った。

「またどうぞ。」

手を挙げて、ドアを閉めた。



「ふー、さて、じゃあ次はどこの店に行こうかな。向こうの通りにするか。たしか、2本目の通りだったかなぁ。」

今は投資家になったハヤチは、次のお店に向かった。



*  *  *



財務部のデフネさんが、書類をまとめている。


「あれ、デフネさんか。まだ明かりが灯いてると思ったら。」

「あ、ムスタファさんじゃないですか。こっちまで来るのは珍しいですね。」

「私も帰るところだったんだけど、なんだか灯りが見えたもんでね。あー、今だと、税金の書類報告かい?」

「そうなんですよ。今回は金額も多いし報告数も増えたんですよ。」

「これは、集計が大変そうだねえ。」

「そうですね。まだあと2日くらいかかりそうで…。」


「役場の人も、もう少し増やした方がいいかい?計算できる人とかが必要になってきただろ。」

「うーん、そうですねえ。銀行の経験者とかがいてくれたら、早くなるとは思いますけど。」


「これは、ギルドに申請してもいいんじゃないか?」

「そうですね。ちょっと明日にでも部長に聞いてみます。」


「その税金報告で、気になったこととか、何かないかい?」

「うーん、今のところ。みなさんの商売が順調のようですね。時期によってバラツキがあるようですけど。」

「そうか。まあ、しばらくは安泰なのかな。じゃ、先に帰るよ。」

「はい。お疲れ様です。」


と、また机に向って、


「さてーと、私ももうそろそろ帰ろっかなー。」


と、計算が終わった書類をまとめ、残った書類を見て、


「…、これが終わったらね。」


と、自分に言い渡した。




*  *  *



その次の日。ハムザくんが持っていた、役所からの人員募集の申請書を、ギルドに向かう道すがら読んでいた。


「財務部の就職案内か。長期勤務が可能な人、条件は計算が得意な人、かあ。デフネさんの後輩だな。」


その申請書をくるくると巻き取り、


「オレも、計算尺、苦手だからなあ。全然使えないよ。アバスク(注:日本のそろばんのようなもの)だったらまだいいけど。」


町の様子も、いつも通りのようだった。ギルドの中も、今日は閑散としている。


「こんにちは。」

「あら、今日はハムザくんの当番なのね。」

「今日は先輩が休みの日なんですよ。なのでオレが連日ですw。」

「あら、そうなの。えっと今日は、その申請かしら。」

「はい。それと、こちらからは何かありますか?」


「えーと、最近は変わったことは無い…、あ、東の都市と北の国で、近いうちにお祭りがあるそうよ。」


「あ、北の国の収穫祭ですね。あそこで焼いたパンが美味しいんですよね。あー行ってみようかなあ。」


「ハムザくん、それもいいけど、もっと別のことがあるでしょ?」

「…あー、そうだ、道路の警備もやるんだなあ。お祭りですもんね。そっかあ。」



お祭りなど、公式のイベントがある場合は、街をつなぐ街道を行き交う人が多くなるので、モンスターが出てきて旅人が襲われないように、最低限の警備をすることになっているのだ。これは各都市や町ごとに、暗黙の了解で設置することになっている。このシステムがあるので、隣の町でも安心して行くことが出来るのだ。



「それも、北と東も、ですもんね。うーん、オレも警備にあたらなきゃならなくなるかなあ。」

「警備の人ってレベル5以上の人でしたっけ?ハムザくんも該当するんですよね。今年はお祭り、行けるかしら?w」

「えー、どうしよう?ちょっとレベル下げようかなあw」

「出来るわけないでしょww」

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