第22話 宝石商に盗賊が…どうなるのでしょうか。

山から下りてきたフィラットとアサフは、小屋に入ると腰を下ろした。

リュックにはターコイズが多く含まれる石、家の中に引き入れた即席大八車には、ロープで括られた大きめの岩石がいくつも。



ターコイズが取れる岩盤に久しぶりに行くと、地震で崩れた跡がいくつも出来ていた。

その中で、いままで行っていなかった奥の割れ目の奥に、いくつか良好な石が採れるのを発見し、

時間も忘れて採るのに夢中だったのだ。



「ふー…、いやあ、今日は疲れたなあ。アサフは大丈夫か?」

「あー、うん。」

「うん、この顔は疲れてるな。じゃ、今日は、少し早いけど休もうか。明日の朝になったら、この石を取り掛かろうよ。」

「あー…、うん。」

「あ、そうしたら、水浴びするか?埃まみれで頑張ったから、よく落とすんだぞ。」

「うんうん、あーぁ。」

「わかったわかった、オレも浴びるから。な。」

「あー、あー」



二人は服を全部洗濯籠に入れて、すぐ裏の川のほとりに降りた。

「おーっ、あーっ」

「おぉっ、冷てぇっ。」

ばしゃっと水の中に入って、体をぐるぐるッと回り、

「ぷはぁっ」

立ち上がって、髪をくしゃくしゃッとかき回す。

そしてアサフも、同じ仕草を繰り返す。

「ぷぁっ」くしゃくしゃくしゃっ!



「ふーん、」

「う?」

「だいぶ、筋肉もついてきたなあ。」

水辺に浮かんで、アサフの姿を眺めていた。

数日に一度は山歩きをして岩石を取りに行くので、体全体的に引き締まってきている。初めて会ったときは、顔も丸顔だったのだが、筋が通ってスリムな体型になってきたぞ。

「レベルも16なんだよな。フツーに、いい男になってんじゃん。」

「うー?」

アサフ自身は、あまり自覚無いのかな。それはそれで…いいのか悪いのか。



「あ」

と、顔を上げると、少し向こうで水汲みの人たちがこちらを見ていた。

水汲み場から下流がこの小屋なので、一応水質には問題はない。

「どうもー。」

フィラットは立ち上がって手を振った。

「もー」

アサフも同じように挨拶する。

水汲みに来た人は、顔を真っ赤にして、そそくさと戻っていく。

「あの子は、…誰だっけな。どっかで会ったことがあったようだけど。」

顔も判別できるくらいの距離なので、見覚えのある顔だったのだが。


*  *  *


この町には、水道施設はない。なので、飲料水はこの川の水。

常に誰かが水汲みに訪れている。今もまた、知らない顔の人が、こちらを見ながら汲んでいる。

先日の地震でも、この川には異常は無かったので、飲み水は通常通りだった。

水道施設が無かったのが、この町にとっては、かえって良かったのかもしれない。


*  *  *


日が明けた。

小屋の扉が開いて、アサフが顔を出した。

「あー、おー。」

「おお、おはよう。早いな。そうしたら今日は、この石から始めてくれ。オレは食事したら、北の町に行って、今ある分を売ってくるから。」

「えー?うー」

ちょっとふてくされたような顔になってる。


「大丈夫だよ。早く帰ってくるからさ。な。」

頭ポンポンとしながら、肩をちょっと寄せた。

「んー、うー。」

小さく、こくんと頷いた。


「帰りはたぶん、明日のお昼すぎかな。それまで、お留守番、頼んだぞ。」

「あ、あー、あん」

アサフはそう言うと、さっそく作業に取り掛かった。

オレも、準備をしよう。持ってく宝石は、これとこれと。


*  *  *


アサフとハヤチさんが作ってくれた、匂い袋。

宝石を入れているリュックに、しっかり取り付けている。

ハヤチさんが得意としていた、特定のモンスターに効果がある薬物で、お守りのように小さい袋に入れてある。この匂いが嫌いで寄ってこないんだそうだ。

もちろん、その特定のモンスター以外は、そんなの平気で出てくるから、用心には越したことは無い。

東の山にいるモンスターが特に効果が高いというから、他の地域では、あまり期待しない方が良さそうだ。



オレもまだレベル7だから全然。ちょっと中ランクでもモンスターが出てこられたら、たまったもんじゃない。

だからなのか、逃げ足だけは早くなった。

靴も、瞬発力と走る速さに特化した装具だけは履いている。



だから、今みたいに、盗賊が4人くらい遭遇したけど、モンスターに比べれば、まだまだ軽いもんだ。山の中を走り回って、撒いているところだ。

「くそー、足速ぇヤツだぁっ!」

残りはこの1人だけだ。もう少しなんだがなあ。しかし、帰り道はどうしようかな。遠回りして夜中走るのがいいかなあ。

「ぅぉー…」

声も聞こえなくなってきたな。ラストスパートで、思いっきり引き離すか。


*  *  *


あのトラブルを振り切り、やっと北の町にたどり着いた。


「とりあえず。腹ごしらえだ。えーと。」

体力をだいぶ消耗してしまったから、夜になる前に回復しておかないとな。

簡単に、屋台のお店にした。


鉄板の上に肉やらパンやらを焼いて、ひとまとめしたものが、皿に乗せて目の前に来た。

「ふぅー。いやー、今日は大変だったぜ。4人組の盗賊に会ってきたよ。」

と店長に言ったハズだが、その周りがざわっとした感じがした。


「え?お前さん、よく平気だったな。」

「あ?ああ、なんとか逃げてきたよ。危なかったぜ。」

「え、なに、南から来たのかい?」

「そうだよ?」


ざわざわっ

「(あの林を抜けたのか?)」

「(え?こいつ何者?)」


なんだなんだ?

あそこは山とは言わないのか?林ってレベルなのか?でけぇ林なんだな。



奥から、図体のデカい男がのそっと現れて、…にこー…と笑った。

「あんた、なかなか見どころありそうじゃないか。ちょっと話聞かせてもらってもいいかなあ。」



お店の中にいたお客まで巻き込んで、今日の、その林の中の出来事を話していって、

「あ、そういえば…ちょっと待ってくれよ…」

と、ゴソゴソ懐を出した。あのターコイズのペンダントだ。

「あれ、だいぶ色が変わってるな。やっぱりホントだったのか?」



※もちろん、色が変わっていることは無い。濃い色に加工して作ったものを見せているだけだ。なお、他の人は、こんなに濃い青の石を、見ることは無かったはずだ。



「え、なんかずいぶん貴重なモン持ってるんだな。」

周りのみんなが、身を乗り出して、このターコイズを覗き込んでいる。


「ああ、これはなあ、身代わりの石っていって、持ち主の身に危険があると、この石の青い色が変わるって言い伝えがあるんだよ。それで持ち主の代わりに、この石が守ってくれるんだってよ…」


*  *  *


昨日はその屋台の周りで、その話をしていって、ターコイズの宝石がいつもの倍以上の値段で、すべて売れていった。

おかげでリュックの中が重い重い。途中の両替商で、コインは全部お札にしてもらったけど、それでもこの重さだ。こんなにお札を稼いだのは初めてだ。やっぱり昨日は泊まらないですぐ帰ってきて正解だったな。



その帰りのルートも少し変更して、盗賊もモンスターも出ない遠回りの大通りを急いで帰ってきた。それでももう日が傾いてきている。


*  *  *



「ふー、ただいまー…って、なんだこれ?どうしたんだ?」

「あ!あー、あー。」

アサフは相変わらず作業台に向かって石を磨いていたのだが、家の中はぐちゃぐちゃに散らかっている。俺の姿を見ると、

「あー、あー」

俺に近寄って、奥の壁の方を指さした。

そこには、見知らぬ2人が手足縛られて目隠しされて、床に転がっていた。




どうやらこちらでも強盗が入ったようだ。

たぶん、アサフのことだ、根を詰めて夜遅くまで作業をしていて、灯りもつけずにじっくりやってたんじゃないか。だから、家の中には誰もいないと思われたらしい。


中にアサフがいるのだから、カギがかかっていないのも当然。


強盗は宝石のありかを探そうと思ったら、アサフがいた、と。

強盗も止めればいいのに、取っ組み合いになって、


しかしこう見えてもレベル16のアサフだ。簡単に身柄拘束されてしまった、ということ、だろうな。



それで、捕まえたはいいけど、アサフはコイツ等をどうすればいいかもわからず、

フィアットが帰ってくるまでそのままにして待っていた、ということ、だろう。



強盗が入ったのが、昨日の夜だとすると、丸一日、ここに置かれていたということか。強盗も災難だったよな。

食事もトイレも行けず、縛られた足を天井から少し吊るされてるから逃げることも出来ずに、地面を転がるだけしか出来なかったということか。

足以外は地面に接しているが、足だけ宙づりにしている方法は、アサフが考えたようで、こうすると本当に身動きが出来ない。うまいことを考えたものだ。



「うーん、アサフ、無事だったか?大丈夫だったか?」

「うん、うん。」

「そうか、それならよかった。」

ぎゅっと体を抱きしめた。アサフも同じように、オレの体に腕を回してしがみついた。



まあ、結果オーライってことでいいのかな?

とりあえずそのまま自衛団に話をして、こいつらを引き取ってもらうことに。

こいつらの服の後始末は、さすがにやってもらった。こっちは床の処理しなきゃならないんだからな。じゃないと臭いにおいがたまらん。

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