第19話 地震というものが治まったようですが。

だいたい、地震が治まったようだ。

これだけ大きい地震だと、余震はあと数日は続くだろうけど。

オレもお茶の倉庫の前に座っていたけど、こっちの地震はまたデカいんだな。



地震という言葉は、この地方には知られていないようだった。町一番の巨漢の男性が呆然としていたくらいだから。

おそらく、少なくとも100年以上は、地震は起こっていないのではないか、と想像できた。

だから、地震にすぐに対応できたのは、日本で暮らしていたオレとハヤチさんくらいじゃなかっただろうか。



揺れが落ち着くころには、倉庫の前にはオレたち数人の人たちが集まった。

銀行の相談役、ケラムさんと、その部下の2人(さっき投げ飛ばした人だw悪いことしたなw)と一緒に。

ここは安心かなと判断したので、オレは町の中心に行くことを伝えて、頭を下げた。

心の中で(さっきはゴメンね)と言って。



この東の通りから、町を改めて見て回ったけど、一番高い建物は、役所と銀行の3階建てだったので、ちょっと傾いたところはあるようだったが、他は意外と形は残っていた。

ただ、土木建業の仕事をしていたオレがみれば、基礎がもうダメという家も、いくつもあった。



*  *  *



「しかし、あなた方はどうしてそんなに動けたのですか?」

町長が直々にお出ましだ。初めて会ったけど、あの胸に付けているペンダント、見覚えがあった。オレが作ったものだったから。

町長さんは、町の真ん中にいたハヤチさんに話していた。


「僕は、福祉施設の職員に勤務していましたからね。避難訓練は毎年4回やらなきゃならない、恒例行事ですから。」

「???」

ハヤチさんの経歴は、たぶんみんな分からないだろう。オレも知らない分野だから。


「まあ、ああいった、地面が揺れるのは、よくあるところに住んでいたんです。だから慣れてるんですよ。」

「そんなところ、住めるわけがないでしょう?」

「いやいや、素敵なところですよ。」


周囲の人たちは、『へえぇ…?』って顔をしていた。

まあ、そこも理解できないかもしれないな。


*  *  *



「そうしたら、これからどうしましょうか。」

役所の総務部長が、不安を口にした。

ここでオレが、勝手にしゃべっていた。ついつい、話さずにいられなかった。



「ここは、まず人が住む家を確保することだなあ。住居の損壊程度の判定を調べて、住む分は問題ないA判定、手直しして住めるようにするB判定、取り壊ししなきゃならないC判定に分ける。

BとCは、今日は家に住んじゃだめだ。丈夫な家に間借りして住むようにしたらいい。C判定は早めに取り壊して、新しく作り直すことが先だな。

それと、近くの都市から逃げてくる人たちが、この町にやってくる。宿を確保しなきゃならないぞ。今日のところはタダで泊めさせて、しばらく様子を見れるようにしないとな。

食糧確保は、その次に大事なことだ。食べられるものを選別しておくことだ。悪くなりそうなものは、すぐに食べれるよう調理していくのが良いな。

怪我人や具合の悪い人がいたら、先に優先して、泊まらせて、食べさせる。元気のある若い人は、譲ってやってほしい。」



「ちょ、ちょっと待ってください。すみませんが、もう一回最初から…」


ハヤチさんと顔を合わせ、プッと笑った。


「そうですね、ちょっと早すぎましたね。それじゃあ、ゆっくりとやっていきましょうか。家の損壊状況は、オレがみます。町の大工の方がいたと思うので、協力お願いします。他の判断はハヤチさんでお任せしていいですか?」


「わかりました。そうしたら、商店街の皆さんと、住民の町内会の代表の方、こっちの道の真ん中でやりましょうか。住民の皆さんは、落ち着くまでそのままじっとしていてもらえますか?申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」



*  *  *



銀行の頭取、エージは、静まった東の通りを歩き、小道に入った。

お茶の倉庫の前に来ると、相談役のケラムさんに礼をした。



「無事だったんですね。」

「いやー、それが、助けてもらいましたよ。あの転生者の方に。」

「ああ、あの宝石商ですか?」

「『ここに火を点けるやつが来るから、とっちめるぞ!』って言って。扉の前にドンと座って動かないんですよ。私の部下も盗賊扱いして追い返そうとするし。」

「なかなか、いい用心棒じゃないですかw。」

「もうその様子を見てたら、笑ってしまいましたよ。あの男は、大物になりそうな予感がします。」

「相談役がそういうなら、もう間違いないんじゃないですか?」

「あの男たちは、日本人だそうですね。私はそうじゃないけど。だから地震は私も初めての経験でした。」

「それでは、ここはもう安全ですか?」

「いやあ、そうとも限りません。そのうち隣の町の人がやってくる。ここを狙わないとも限らない。やっぱり数日は、見張っていますよ。どうせ交易しようにも、今では買ってくれる人がいないですから。」

「そうですか。それでは、私は向こうに行っても構いませんか?」

「どうぞどうぞ、ご自由に。また何かあったら、こちらから伺いますので。それでは。」


相談役はエージの姿が見えなくなると、腰を下ろした。

また地面が、ゆっくりと、小さく揺れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る