第18話 天変地異がきました。とんでもない状況です。
…ガサガサ…
…ズズズ…
「…なんだろ…誰かな?」
ハヤチが気が付いて、窓をそっと開けた。
遠くで、いくつもの目が光っている。
「あれ?モンスターだ?こんな町の近くに?」
とりあえず、簡単に服を着て、外に出る。レベル22だから、素手でもなんとか対応できるかな…と考えて。
ヒュッ…シュルル…
姿は確認できなかったが、町から遠く離れていく。そして風の音だけが残った。
ハヤチの住む家は、町の中心から、東にずっと離れたところだ。東の関所の方が、歩いてすぐの距離にあるくらいだ。
町はまだ明るさが残っている。一応中心地まで歩いたが、町中にはモンスターはいなかった。
「うーん、何があったんだろう…?」
とりあえず、何もなさそうなので、家に戻ろう。日の出にはまだ早すぎる。
* * *
「おおい、アサフ、なんか今日は元気が無いな。なんかあったのか?」
フィラットは、今まで造り上げてきた宝石の全てを、背にしょってるリュックに入れてある。数にして60点以上のターコイズ製品が入っているのだ。全部売れると、数万コインになるだろう。
空のリュックは、その売ったお金を入れるためのものとして用意した。それをアサフに持たせようとしたのだが、体調が思わしくないようだ。椅子に座ってくたっと弱っている。
「うーん、ちょっと元気になるまで待ってるかあ。」
北の関所まで来ているのだが、すぐ近くの宿で休んでいこうかな。
「そうだね、あんなに元気にしてたのに。ちょっと興奮して眠れなかったのかなあ。」
昨日、試しに着てみた、よそ行きの服。お客様に会うので、礼儀としてピシッとした服を、このために新調したのだ。家の中で走り回っていたので、まあ、嬉しかったんだろう。
ハヤチも見送りに来ていた。アサフの(育ての)母も一緒なのだが、心配そうに手を繋いでいる。
すると、町の外が、騒がしくなった。
ギャーギャー…
ズズズズ…
ガサガサガサ…
そして遠くから響く、低い、衝撃音。
ズン…ドン・ドン…
「あ、やばい、地震だ!」
「え?」
ググゴゴゴゴ…
「みんな、家から出て!離れて!」
ゴゴゴゴ…ガガガガ!
* * *
とにかく、アサフをかばったことしか覚えていなかった。
母さんを引き寄せ、じっと堪えるしかなかった。
ハヤチさんは揺れと同時に町に駆けていった。すぐそこの宿から人を出して、その奥にまた走っていった。
アサフは、泣いていた。母さんも、俺にしがみついて、真っ青な顔をしていた。
ハヤチさんの走っていった方向、町の中心部に、もうもうと砂埃が舞っていた。
「宿屋のおっさん、大丈夫か?」
「あ、あ、ぁぁ、なんとか、生きてるみたいだ…」
「こっちの世界でも、地震って起こるのかよ。」
「じ…なに?何があったんだ?」
「あ、そっか、地震って、こっちの世界では経験したことが無いんだな。そうしたら…、あ、津波!」
俺は立ち上がって周囲を見渡した。
「おっさん、この辺って、海はあるのか?」
「う、海?海は無いよ。ずーっと遠く、4日くらい歩かないとないよ。」
「そっか、じゃあ津波は大丈夫そうだな。…じゃあ、」
町の中心部を見た。住民の人が大勢、こちらに向かって来ているのが見えた。
「なあ、ここの宿で、住民の人たちを集まらせておいてくれ。まだ地震が…、さっきの揺れるのが、まだ何度か来るから、ここでじっとしておいてくれよ。」
「あ、あぁぁ、わかった。それであんたは?」
「俺は、町の中に助けに行ってくるから。このアサフも頼んだぞ。いいな。」
と、ハヤチさんみたいに町の中心地に向かって走り出した。
すぐに、地震の第二波がきて、地面が音を立てた。同時に背後にも悲鳴が聞こえた。
* * *
「あ、フィラットさん、あっちは大丈夫なの?」
「ああ、宿屋のおっさんに任せたから。」
「そうしたら、北の道は僕がやるから、東の道を頼みます!」
「おう、わかった。気を付けれよ。」
「あっ、それと、」
と近寄って、小さい声で言った。
「泥棒が出てくると思います。町中に誰もいなくなるので、物取りが。とにかく全員、建物の外に出してやってください。それと、お茶の倉庫に火を点ける人がいるかもしれない。それも気を付けて。お茶の倉庫は、僕の家の道路向かいの小道を行ったところです。」
「そうか、わかった。」
思い切り走った。役所を抜けて、中心のロータリー公園を抜けて、商店街を一度抜けて、東の関所の前に。
ここにも宿屋が一つあるので、住民を集めた。
「そして、ハヤチさんの家の前の小道…、これか。」
その道を行くと、途中に奥に走っていく数人がいた。
「そっちはヤバい。引き返せ!こっちに戻ってこい!」
その人たちはびっくりした顔をして振り返った。その体を掴んで、勢いに任せて通りに向かって背中から推した。
「おぉぉおいおい、ちょっと待ってくれ」
「ほら、通りに出たぞ。ここなら安心だから!」
ずざざーっと派手に転んだその人たちを見届けたら、またすぐに奥に走った。
そして、お茶倉庫の建物は、
「…はぁっ、はぁっ、…あった…」
建物は残っていた。そして大きな鍵もしっかりかかっていた。そして、建物の陰に、銀行の相談役、あの人がいた。
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